トップページ >> 水土里ネットって何? >> 農村・農業の持つ多面的機能
私たちの住む日本の地域社会は稲作を中心とした社会として発展してきました。このため、地域の自然、文化、生活、生産環境は農業・農村の歴史と深く関わっています。最近私たちは、農業・農村がこれらの仕組みに果たしている多くの役割、つまり「多面的機能」を持っていることがわかってきました。
水田は自然がつくったダムです。大雨や台風の時に降った雨をためることにより、一度に流れ出るのを防ぎ、徐々に下流に流すことによって洪水を防止・軽減し、私たちの住む都市や農村を守っています。
また、かんがい用のダムやため池は、春の雪解け水や梅雨特有の大雨、9月の台風シーズンに洪水となる水を貯め込んで下流にある市街地や農村集落を洪水被害から守っています。この治水効果は計り知れないものがあります。これら水田や農業用施設の維持管理の一部は農家の方々や土地改良区組合員の負担によって賄われているのです。
田んぼにたまったかんがい用水や雨水は河川へ還元され、時間をかけて地下に浸透した水は地下水となり、きれいな水として飲み水や生活用水として利用されます。
田んぼにはきれいな水が豊富にあり、メダカなどの水生生物やトンボなどの昆虫のほか、まわりの山林や原野には鳥やうさぎなどもいます。最近はホタルもよみがえってきました。こうした野生動植物の保護にも大きな役割を果たしています。
ふるさとの豊かな自然・のどかな農村景観は農業が営まれることにより維持・保全されているのです。
農村に残っている伝統的なお祭りは、豊作を祈ったり、収穫を祝うばかりでなく、都市から訪れた人たちに安らぎを与え、豊かな文化を育みます。最近ではグリーンツーリズムなどの農業体験が積極的に行われ、都市と農村の交流が図られています。
農村や市街地を流れる農業用水は、農業を営むためのかんがい用水としてダムや河川から取水され土地改良施設によって流されています。水の豊富な私たちの生活では気がつかないかもしれませんが、これらの水路や水は水田を潤すかんがい用水のためだけでなく、地域の生活用水や防火用水・降雪地では消流雪用水として利用されています。これら土地改良施設や水の維持管理は農家の方々や土地改良区組合員の負担によって賄われています。
農業や農村の多面的機能をお金に換算したらいくらになるか、農林水産省で98年に試算しました。その結果は、6兆8788億円にもなりました。
※資料:農林水産省農業総合研究所「農業・農村の公益的機能の評価検討チーム」による資産(1998年)
機能 | 評価の概要 | 評価額 (単位:億円) |
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洪水防止機能 | 水田及び畑の大雨時における貯水能力(水田52億立方メートル、畑8億立方メートル)を治水ダムの減価償却費及び年間維持費により評価した額 | 28,789 |
水源かん養機能 | 水田のかんがい用水を河川に安定的に還元して再利用に寄与する能力(638立方メートル/秒)及び水田・畑の地下水かん養量(37億立方メートル)を、それぞれ利水ダムの減価償却費及び水価割合額(地下水と上水道との利用料の差額)により評価した額 | 12,887 |
土壌侵食防止機能 | 農地の耕作により抑止されている推定土壌侵食量(5,300万t)を、砂防ダムの建設費により評価した額 | 2,851 |
土砂崩壊防止機能 | 水田の耕作により抑止されている土砂崩壊の推定発生件数(1,700件)を平均被害額により評価した額 | 1,428 |
有機性廃棄物 処理機能 |
有機性廃棄物の農地への還元量(都市ゴミ6万t、し尿86万Kl、下水汚泥23万t)を、最終処分経費により評価した額 | 64 |
大気浄化機能 | 水田及び畑による大気汚染ガスの推定吸収率(SO2 4.9万t、SO2 6.9万t)を、排煙脱硫・脱硝装置の減価償却費及び年間維持費により評価した額 | 99 |
気候緩和機能 | 水田による夏季の気温低下能力(平均1.3度)を、冷房電気料金により評価した額 | 105 |
保健休養機能 | 農業・農村が有する保健休養機能を、農村地域への旅行者及び帰省者の旅行費用により評価した額 | 22,565 |
合計 | 68,788 |